いつも何となく宝石や稀少宝石、稀少石、天然石なんかのルースやジュエリーを紹介してきましたが、今回は少しばかり趣向を変えて「宝石のカット研磨のスタイル」に関する雑談的な内容で書きてみたいと思います。
一般的に宝石等のカット研磨のスタイルとしては、多面体で構成されたファセットカットと表面に丸みを持たせたカボッションカットが主流となり、稀にルースの表面だけがカボッションカットで裏面だけがファセットカットとなったバフトップと呼ばれるカットスタイルや不定形研磨と呼ばれる歪な形状のまま全体的に磨き上げたものもありますが、ルースと呼ばれるカット研磨が施された石の場合、基本的にはファセットカット系の様々なアレンジスタイルかカボッションカット系の様々なアレンジスタイルになっています。
宝石といった稀少性が高く美しい石は、その石の原石が本来、持っている色合いや透明感や大きさといった特徴や稀少要素を重視してカット研磨のスタイルが決められ、それに準じたカット研磨が施されるんですね。
小さなルースを大きく見せる事や色合いを鮮やかに見せる事や透明感を引き出す事や様々な特徴を強調する事など、石のカット研磨職人さん(カッター)は経験や技術や感覚といった持てる全てをひとつの宝石に注ぎ込んでいるんだよ。
もちろん、原石そのものが小さい鉱物や特徴的に瑕疵やインクルージョンが内包している宝石も多い上、明らかにカット研磨の品質が悪いルースも存在しますが、技術的な良し悪しは別にして、カッターと呼ばれる石のカット研磨を専門にしている職人さん達の多くは特に貴重な宝石や稀少な稀少宝石に関しては、常に最高または最良のルースにカット研磨するようにしています。
そんなカット研磨のスタイルも時代と共に変化するもので、現在ではある程度、画一的なカットスタイルとなったルースが多くなりましたが、今回の記事では「アンティーク・カット」の別名でも呼ばれる事がある、古いスタイルとなる「ヒンドゥ・カット」や「セイロン・カット」と呼ばれている石のカットスタイルについての記事を書きたいと思います。
ヒンドゥ・カットやセイロン・カットと呼ばれるカットスタイル
広義では「アンティーク・カット」と呼ばれる事があるように現在では殆ど廃れてしまった重量を重視して歩留まりを上げる事に主眼にしたルースの裏面が左右非対称だったり、一般的なプロポーションを無視して厚みや高さを持たせたファセットカットの事になります。
ヒンドゥ・カットやセイロン・カット(セイロンとはスリランカの旧名称)と呼ばれる事からも分かるように主にスリランカやインド等で古い時代にカット研磨されたルースのカットスタイルとなっています。
業界では一般的にプロポーションよりも重量を重視されたカットスタイルである事から、重量がある事によって少しでも価格を上げようとしている感じが反感を招き、批判的な意見や批判的な意味合いで用いられる事も少なくありませんでした。
しかしながら、現在は高品質な原石や大粒サイズの原石の産出量の減少している事、スリランカ(それもセイロンと呼ばれていた時代)の素晴らしい宝石が極めて稀少性の高いものになっている事から、時代的にも産地的もカット研磨の主要地である事も含めて、ヒンドゥ・カットやセイロン・カットが施された高品質で大粒サイズの宝石は逆にひとつの評価基準として考えられる傾向が強くなっています。
誰でも同じだと思いますが、最上級が高品質で大粒サイズの宝石となるものの通常は品質か大きさのどちらかを優先した選択になり、やはり大粒サイズのものは人気が高い上、ヒンドゥ・カットやセイロン・カットのようなカットスタイルの宝石はリカットする事でサイズは小さくなるものの品質的には高品質のものが少なくない為、そうした意味でも以前とは違った評価となっているんですね。
ヒンドゥ・カットやセイロン・カットが施されたルース
ひとつ前の文脈で出てきた「サファイア」のように主にスリランカ産のサファイアを始めてとする宝石類、他の産地で採掘や採取された宝石類でもカット研磨に関してはスリランカでおこなっていたルースが殆どとなり、現在でも見る機会がない訳ではありませんが主にデッドストックになっているルースが中心となり、それ以外では還流品で目にする程度まで減少し、主流のカット研磨のスタイルではなくなりつつあります。
2000年代初頭までは、多くのルースを目にする機会がありましたが職人さんも代替わりし、よりスタンダードなカット研磨のスタイルへと移行しているんだね。
こちらは原石の産地はインドとなる「クリソベリル」となりますが、高価な宝石で原石のサイズが大きなものは、こうしたヒンドゥ・カットやセイロン・カットにカット研磨される事が一般的でインドでも同じようなスタイルが当時のスタンダードだった事から、インド・カットとも呼ばれていましたが、現在では全てアンティーク・カットの一種として扱われています。
鮮やかな独特の薄っすらと緑の入った黄色をした透明感の高いクリソベリルは、サファイアと同じくらいヒンドゥ・カットやセイロン・カットが施されていたスリランカを代表する宝石のひとつになりますが、こうした大きさのルース自体が激減している為、個人的には寂しく感じています。
様々なクリソベリルに関する詳細な記事は下記のリンクからご覧になれます。
こちらは産地こそケニア産ですが、大粒の原石が極めて少ない「ツァボライト・ガーネット」のルースになりますが、カット研磨がスリランカで施された時代感のある稀少な大粒ルースになっています。
このようにスリランカやインド等で産出した宝石に限らず、世界中の様々な宝石(ダイヤモンドは除外)がスリランカでカット研磨されて美しいルースとなって多くのジュエリー等の装飾品に加工されていたんですね。
ツァボライト(グリーンガーネット)についての記事は下記のリンクからご覧になれます。
ヒンドゥ・カット等とは呼ばないものの歩留まりを重視したルース
ここでは一般的にはスタンダードなカットスタイルではなく、ヒンドゥ・カットやセイロン・カットと同じように歩留まりを考慮し、石の重量を重視しつつも宝石の色合いといった魅力を最大限に惹き出す為に敢えてスタンダードなカット研磨をしない特殊なルースを紹介したいと思います。
こうした特殊なカット研磨が施される宝石は極めて稀少性の高い宝石に限定されおり、単に稀産であるとか程々の稀少性があるといった宝石に対して施される事は基本的にはないハイエンドな稀少宝石が該当します。
こちらはスリランカに限らず、世界的にも極めて稀少性の高い「パープル・ターフェアイト」という稀少宝石になりますが、こうした殆ど産出のない極めて稀少性の高い宝石も歩留まりを考慮した重量を重視したヒンドゥ・カットやセイロン・カットが施されます。
こうした極めて稀少な宝石に関しては、現在でも例外的にヒンドゥ・カットやセイロン・カット、またはカットスタイルは違うものの同じく歩留まりと重量を重視した特殊なカット研磨のスタイルが施されるのが一般的なので、そういう意味では例外的なパターンとなります。
こちらはマダガスカル産(産地としてはマダガスカルのみ)の鮮やかなネオンピンクをした天然ベリルとなるなる「ペッツォタイト」のルースですが、かなり石の裏面に高さ(厚み)がありますね。
現在、ペッツォタイトは非常に小粒で色合いの薄いルースが殆どで大粒で色艶の鮮やかな高品質のルースが市場に出る事は極めて稀となり、そうしたルースはデットストックされていたものに限定されています。
ペッツォタイトについての記事は下記のリンクからご覧になれます。
同じくヒンドゥ・カット等とは呼ばないものの重量等を重視したルース
ここでは主にカボッションカットの中でもキャッツアイやスター等の特殊な光彩効果が生じる宝石や色合いを重視して敢えて高さ(厚み)を持たせたルースなんかを紹介しますね。
こちらは色合い的にはバイオレットカラーになる薄青紫色というサファイアとしては珍しい色合いとなるスリランカ産の「スターサファイア」のルースです。
このルースに関しては色合い的に珍しい事から高さのあるハイカボッションカットが施されている事により、鮮やかな色合いが強調されていますが、カボッションカットのスターサファイア系のルースも歩留まりを考慮して重量を重視し、無駄に高さのあるルースが多く存在していました。
現在でも当時のデッドストックや還流品といったルースで見掛ける機会が少なくありませんが、これは多面体のファセットカットと違ってカボッションカットの場合、特にキャッツアイやスター効果が見られるルースだと裏面の状態が見た目への影響が少ない事も理由になっているんですね。
ここまで紹介してきたルースは主に宝石や稀少宝石といった扱いをされるスタンダードなルースでしたが、こちらは稀少宝石~稀少石といった印象の強いマニアックなスリランカ産の「ピンクスキャポライトキャッツアイ:チューブインクルージョンタイプ)」となります。
ご覧のようにルースの裏面に高さ(厚み)がありますが、このルースに関しても先程のヴァイオレットカラーのサファイア同様に色合いの鮮やかさを目的にした意図的なカット研磨になっており、ルースの裏面まで丁寧で美しいカット研磨が施されています。
ピンク色のスキャポライトやスキャポライトキャッツアイは非常に珍しいので、殆ど市場に出る事がないもののマニアック過ぎて知名度が低いんですね・・・
今回は、これまでとは少し切り口を変えて書いてみましたが、何にしても現在は小粒サイズのルースが流行りなので、ヒンドゥ・カットやセイロン・カットといった古い時代の大きさ重視のアンティーク・カットよりもリーズナブルな小さいルースの方が馴染みがありますよね。
ちゅ~ても、小粒になると品質も分かり難いですし、産地証明どころか宝石鑑別書も作成できないので、処理石や模造品なんかも多いですから、それはそれで目利きというか経験値が必要です。
ちゅ~ような感じで、宝石というのは奥が深いものですね。
ち~ゆ~。
ΦωΦ
あたしの所有する殆どは2000年初旬頃までに買い付けたデッドストックなので、結構、このタイプが多いし、個人的にも好きなんですよね。
ΘεΘ
人間味というかハンドメイド感があるもんね。
ΦωΦ
試行錯誤したんだろうなぁ~って思ってしまう。
ΘεΘ
うい。
ΦωΦ